第37回 「金庫株の税制が変わった」

「先生、金庫株の税制が変わったら しね」  事務所を訪ねてきたのは金型製造 の会社を経営している社長さんです。 大変勉強家の社長さんで、今の勉強 テーマは事業承継です。  以前より金庫株の制度を使って、 自社株を会社に売りたいと話してい ます。 「それで、今日は金庫株のご質問で すか?」  社長がおいしそうにタバコの煙を 吐き出しながら質問してきます。 「うん、今年の税制改正で金庫株の 制度が使いやすくなったと聞いたん だけど、そもそも金庫株ってどんな ものなんだっけ?」 「あれ、社長いつも金庫株、金庫株 って言っていたじゃないですか。本 当はどういうことなのか知らなかっ たんですか?」 「いや、そんなことはないんだが・・・」  上場会社の株式と違い、非上場の 中小企業の株式は簡単に売却して現 金にすることができません。しかし、 上場株式も非上場株式にもその価値 に対して同様に相続税がかかります。  例えば、設立時(額面500円) の会社の株価が現在は50倍になっ ているとします。資本金が1000 万円だとすると株価の総額は5億円 にもなります。仮に相続税の税率が 40%だとすると納税額は2億円で す。  上場株であれば相続した株式を売 却して納税資金を用意することも可 能ですが、非上場株では容易に売却 先を探すことはできません。仮に売 却先があったとしても、経営権を脅 かされる可能性は否定できません。 当然に納税資金は別途預貯金などで 用意をしなければなりません。  必然的に、自社株を自分の会社で 買い取ること(自己株式の取得)は できないものだろうかという要望が 出てきます。 「たしか以前は自己株式は禁止され ていたんだよな?」 「そのとおりです。例えば合併の相 手先が自社の株式を持っていたケー スで、たまたま合併によって自己株 式になってしまったとか、相当限ら れた場合にしか認められていなかっ たんです。かつ、持ち続けることは できなくてすぐに処分をしろという ことになっていました」 「非上場株の処分なんて、簡単にで きるわけはないな」 「そういうことですね。そこで出て きたのが平成13年からの改正で登 場した金庫株です」 「それだよ、わからないのは。どう して金庫株っていうのかな」 「まあ、簡単に言ってしまえば自己 株式を金庫の中に入れてしまってお いても構わないですよ、ということ ですね」 「つまり、取得した自己株を処分し なくてもいい、持ち続けることがで きるということだな」  現在は、自己株式の取得は一定の 手続きを経ることで自由に取得する ことができます。取得するだけでは なく、その後も持ち続けることがで きるので大変便利になっています。 取得した株式を金庫で保管をするこ とができる、このあたりが金庫株の 名前の由来のようです。 「ということは、われわれ中小企業 の株式でも会社に買わせて現金に換 えることができるようになっている ということだね」 「そうなのですが、ここに税制の問 題点がありまして、なかなか使いづ らいんですね」 「というと?」 「自己株式の取得(金庫株)という のは、いくらでも買えるわけではな くて会社から見て配当のできる金額 までの取得しかできないことはご存 知ですよね」 「うん、聞いたことがある」 「つまり、株主から金庫株として株 を買い取るということは利益を払い 戻したということと同じだという考 え方なんです。これをみなし配当と いいます」 「そうなるとどうなるの?」 「株主からすると、株式の譲渡では なくて配当を受け取ったとして課税 を受けるんです」  金庫株の課税の問題は、まさしく この配当所得の問題でした。細かな 計算方法は省略しますが、配当所得 になるとなると、給与所得や不動産 所得などの所得と合算されて所得税 や住民税が計算されますので、最高 で50%までの課税があります。会 社のオーナーなどで所得の多い人に とっては、せっかく株式を譲渡して も手取りがとても少なくなってしま うこともあるわけです。  平成16年度からは、非上場株 式の譲渡税が20%に統一されまし たから、それに比べてもかなり高い といわざるを得ません。 「そうか、それでは意味がないな。 せっかく相続のときの納税資金に使 おうと思っていたのに50%も税金 があるとなると躊躇するな」 「ええ、そこで今年、平成16年度 の改正ですよ」 「ふむふむ」 「今年からは、相続で取得した非上 場株式を相続人が株式の発行会社に 譲渡した場合、ようするに金庫株で すね。この場合には、みなし配当を やめて、株式の譲渡税だけ、つまり 20%だけの課税で終了できるよう になったんです。どうです、いいで しょう?」 「それは使えるね。うちみたいにほ とんどが自社株みたいな財産の場合 には納税資金が絶対に足りないんだ から助かるなー」  平成16年度の改正項目である「 相続自社株の金庫株譲渡特例」は、 中小企業の株式に換金の道を開いた という点で評価できるものだと思い ます。簡単に要件を整理すると、 @相続税の課税価格に算入(三年以 内の贈与加算、相続時精算課税制度 による受贈を含む)された株式であ ること A相続税がある個人の譲渡であるこ と B相続開始の翌日から申告期限後3 年以内までの譲渡であること  などです。  この譲渡の時には、税率の20% の特例だけではなく、相続申告後3 年以内の相続税の取得費加算の特例 も利用できますので、さらに実行税 率は低くなるはずです。  このように、非上場株式に換金の 道が開かれたことによって、事業承 継対策の考え方も変化してくるので はないでしょうか。
  上記記事の内容は、葛゚代セールス社発行 Financial Adviser2004年07月号に掲載されたものです。