第27回 「アパート経営ののちょっとした勘違い」
新米FPのK君がアパート経営について質問しにきました。K君は以前はサラリーマンだったのですが、脱サラしてアパート経営で生活をしていこうと考えています。まずは、勉強をしないといけないと考えてFPの資格も取っています。
「先生、確定申告のやり方を教えてもらってもいいですか?」
「え!?ああ、もうそんな時期になるんですね。年々時間の経つのが早くなってきているような気が・・・」
「何をお年寄りのようなことを言っているんですか。それよりも減価償却のやり方を教えてくださいよ」
せっかちな物言いは営業マンであった名残でしょうか。
「うちの事務所と顧問契約をしてもらえれば、面倒くさいことは全部お引き受けするんですけどねぇ」
「個人のアパート経営くらいは自分で確定申告できますよ。先生に払うお金ももったいないし、それに、先生なら何でもただで教えてくれるじゃないですか」
「別にただで教えてあげているつもりもないのですけど・・、それはそれとして、今日のご質問はなんですか?」
K君はおもむろに資料を取り出しました。自分で作成した減価償却の計算書のようです。
「たしか建物の減価償却は、定額法だけでしたよね?」
「うん、そうなんですが、設備の減価償却がないですけど、大丈夫ですか?」
「設備って?」
「電気設備とか給排水設備とか冷暖房とかのことですけど」
「あれ、それを含めてアパートじゃないんですか?」
どうやら、A君はピンと来ていないようです。いわゆる建物付属設備は建物に含めて減価償却をしてもいいのですが、これらは区別して経理をすることで、15年程度の短い耐用年数で償却ができます。しかも、建物では定額法だけしか認められていませんが、付属設備は定率法が認められていますので、減価償却の額はぐっと増えることになります。
「はあ、そうだったんですか。建築業者が作った資料をそのまま使っていたので・・・」
「他にもありますよ。建築したときの登録免許税とか不動産取得税が経費になっていないようですけど、これも建物の中に入れてあるんですか?」
「もしかして、それも今年の経費にできるんですか?」
これもよくあるミスです。所得税では業務用の減価償却資産の取得に伴う登記費用や不動産取得税については、取得の後に発生する費用であるということから、取得価額に算入しないで必要経費にすることになっています。企業の経理処理により任意で取り扱うことにしている法人税の取り扱いとは異なっているところが面白いところです。もちろん、アパート経営の収支を良くするために建物の取得価額に算入した上で減価償却という方法で経費にしていっても問題はないのですが、建物であれば数十年、設備で十数年、または一度に経費にできる、いずれを選択するかで課税所得は大きく変わるわけですからその違いは歴然です。
「まだありそうですか?」
だんだんと自信がなさそうになるA君です。
「まだまだありますよ。と言いたいところですが、この資料からはこの程度ですかね」
「ああ良かった。でも知らないと随分と損をしてしまいますね」
「まあ、減価償却についてはいずれは経費にできるわけですから、永久に損をしてしまうわけではないですけど、それでも金額が大きいですから節税効果は随分と変わりますよね」アパートやマンションを経営し始めたときに問題になるのは、減価償却の問題ばかりではなく、消費税も重要です。
「ところで、消費税のことはどうするつもりなんですか?」
「消費税というと?」
「ほら、建築費に含まれている消費税の還付の話ですよ」
「え?!アパートは消費税の還付は受けられないからって、建築業者の方に言われたんですけど?」
「それは、居住用のアパートは家賃に消費税がかかっていないから、還付が受けられないですよって話でしょ?」
アパートを建築すると、その建築費には消費税がかかっています。消費税はお客様から預かった消費税から支払った消費税を差し引いて納めますから、納め過ぎている場合には還付を受けることが可能です。しかし、一般的に居住用の建物については受け取る家賃に消費税がかからないため、支払っている消費税についても還付を受けることができません。しかし、他に消費税のかかるビジネスをしていたり、駐車場などの収入がある場合には、その割合に応じて消費税の還付を受けることが可能です。
「ということは、僕の場合にはアパートですから消費税の還付は受けられないということですよね?」
「違うでしょ。一階にはコンビニが入居しているし、二階はオフィスなんだから、その分の消費税は還付されるはずでしょう。それに、今年はアパート部分もまだ満室じゃないんだから、消費税のかかっていない売上はそれほど多くないはずだし、駐車場もありますから、もしかすると消費税がたくさん返ってくるかもしれないですよ」
「ははあ、なるほど・・、でも、消費税の還付を受けるためには『課税事業者の選択届け』を出しておかないと駄目だって聞いているんですけど、消費税の還付は諦めていましたから出していないんです」
消費税は手続きがとても複雑になっていて、色々な届出を出さないと特典が活かせない制度になっています。そのほとんどが前年度末までに選択して提出することになっていますので注意しなければなりません。
「安心してください。開業初年度の場合には、その年が終わるまでに提出すればいいことになっていますから、まだなんとか間に合いますよ」
「やったー、ありがとうございます。早速計算してみてメリットがありそうだったら、税務署まで走ります!」
言い終わらないうちにA君は走っていってしまいました。どうやら、今年も顧問料はもらえそうにありません。
|