第22回 「ゴルフ会員権の損失は損金になる?」

「社長、言いたい事があるなら今のうちに言っておいてくださいよ。もう決算を固めてしまうんですから」
 三月決算の真っ只中、クライエントの社長と最後の打ち合わせです。
どうも、社長の顔が何か言いたげにこちらを見ているのが気になります。
「いや、ちょっと利益が出すぎているんじゃないかと思ってね・・・」
 決算書を見てみると、確かに前期よりも若干利益は上がっています。
「いい事じゃないですか。利益が上がらなくて困っている会社が多いのに、この時期でさえ増収増益なんですからね。立派なものですよ」
「うん、わかっているんだが、もう少し節税できないものかということなんだが・・・」
 傍らで聞いていた事務所スタッフのTが割り込んできました。
「社長、できる節税はきちんとしてありますよ。今期は有価証券の下落が大きかったから、その処理もしてあるでしょう?あ、もしかしてまたゴルフ会員権のことを言っているんですか?」
 Tが睨むような目を社長に向けると、社長はばつが悪そうに私のほうに助けを求めてきました。
「先生、Tさんはきちんと仕事をしてくれるのはありがたいんだが、ちょっと堅すぎるんじゃないかと思うんだ。大損しているゴルフ会員権を損金にできないって言うんだ」
 やっと要領がつかめてきました。
どうやら会社が保有しているゴルフの会員権の相場が下がっているということを言いたいようです。
「随分損をしているんですか?」
「損どころか、ゴルフ場が破綻してしまったんだから、もう資産価値なしだよ。ほら、去年の暮れに先生と一緒に行ったあのゴルフ場だよ」
「あれあれ、確か綺麗なゴルフ場だし、プレイヤーも結構いたような気がするんですけど、破綻ですか。それは災難でしたね」
「そう思うだろう?バブルの時に買ったものだから、含み損だってかなりあるし、破綻しているんだから損にならないわけはないんだよ。何度も言っているのに、Tさんは無理ですの一点張りなんだから、先生からも何か言ってよ」
 社長の口から堰を切ったように言葉が出てきます。実は、このゴルフ会員権の処理については、とても質問多いところで、決算処理でも頭を悩ませるところなのです。

「で、T君。結論的には社長の会社のケースは損金にできる余地はあるの?」
「残念ですけど、会社がお持ちの会員権は、確かに破綻はしたようなんですが、まだプレーができるものですから、損金処理はできないです」
「ということのようです、社長」「先生までそんなにあっさり片付けないでよ。上場株は大丈夫なのにゴルフの会員権は駄目なんて納得できないよ」
 確かにその通りです。有価証券であれば時価の著しい下落や発行企業の破綻などがあれば何らかの処理をすることが可能ですが、ゴルフ会員権の場合には簡単には処理ができないことになっています。
 ここでゴルフ会員権の評価損の処理についてまとめておきましょう。

 値下がりしたゴルフ会員権を損金として処理したいというニーズは根強いものがあります。しかしながら、
@預託金方式のゴルフ会員権については、預託金は「債券」ではなく、預託金に付いている「プレー権」がその本質とされているため、多くの場合、「プレーはできるが時価は下落している」というケースで会計上の評価損を計上しても、税務上、その評価損は認められないのが実情です。
 では、株式形式のゴルフ会員権の場合にはどうなるかというと、こちらは有価証券の評価損と同様の取り扱いになりますが、株式形式のゴルフ場は経営が安定している場合が多く、評価損が認められる場合は限られてくるでしょう。
 つまり、実務上は実際に売買をして売却損を出すしかないということになりますが、形式だけ売買をしてすぐに買い戻すような取引では売却損が認められないことは言うまでもありません。

 続いて問題となるのは、経営状態が悪化したゴルフ場を保有している場合でしょう。この場合でも、プレー権が存続している以上は預託金は債権ではありませんので、貸倒の対象にはなりません。
 会員権が貸倒・貸倒引当金の対象となるためには、「退会の届出、預託金の一部切捨て、破産宣告等の事実に基づき」預託金の返還請求権が発生した時ということになります。
つまり、預託金という返還が約束されている預け金から債権に変わることが必要です。
 経営の破綻には民事再生法などの開始申立や認可決定も含まれることになっています。退会をすることが前提ですが返還されない預託金が確定すればその部分が貸倒として処理できますし、50%の貸倒引当金の設定ができます。
 また、法的な破産等にはなってはいないものの、退会の手続きをしたら返還されないことが確定し場合にも貸倒として処理ができます。

 最後に、ゴルフ場の経営を他のゴルフ場が引き継いで新しいゴルフ場の権利をもらうというケースが散見されます。こちらは、ケースバイケースで判断をしなければなりませんが、古いゴルフ会員権を売却し新しい会員権を取得したという見方ができるので、古い会員権の帳簿価額よりも新しい会員権の時価が安ければその差額が譲渡損として認められることもあります。

「社長どうです?株式との違いがわかってもらえましたか?」
「うーん、難しいものなんだねぇ」
「大体社長、使わないゴルフ場を持ちすぎているんじゃないですか?」
「銀行から頼まれたものとか、事情が色々あるんだよ。でも、やっぱり使わない会員権は処分した方がいいのかなあ。うーん、大損した上に何か割り切れないものを感じるなー」

 ゴルフ会員権の含み損を抱えている企業や個人はたくさんいます。売却して損出しをすることを含めて、資産の再構築を進める時期に来ているというべきなのでしょう。

  上記記事の内容は、葛゚代セールス社発行 Financial Adviser2003年8月号に掲載されたものです。