第16回 「個人事業主の法人成りのメリット」
個人事業主の税金は所得税、県市民税、事業税という形で、毎年3月15日までと定められている確定申告で納税することになります。
そして、この所得税等は1月1日から12月31日までの一年間を事業年度として計算することになっています。
年度末を迎え確定申告のことが頭にちらついてくると、個人事業主の方が考えるのは、
「また税金の支払いのことを考えないといけないが、もっと節税できないかなー」
であったり、
「そろそろうちも会社組織にした方がいいのかな」
などと色々なことが頭に浮かびます。また、同様の相談を事業主の方から受けているFPや金融機関関係者の方も多いのではないでしょうか。
個人事業主の方が法人にするメリットは、一般的に
(1) 事業主の事業所得が給与所得に変わることにより、所得税・個人事業税などの負担が軽減される
(2)家族や親族に給与を支払いつつ扶養親族とすることが可能(ただし年間給与103万円以下)
(3) 欠損金の繰越控除期間が5年になる(個人は3年)
(4)役員退職金の支給が可能で、適正額までは損金に計上できる。
(5)個人に比べて、対外的信用が向上する。
(6)経営者自身も社会保険へ加入できる。
など色々な面が考えられます。特に税制上は個人の所得税と住民税の実効税率(最高で約50%)と法人の実効税率約40%(中小法人は軽減税率あり)の格差も考えるとかなりの節税効果が期待できることもあります。
また、資本金が1000万円未満の会社については最初の2年間は消費税の納税義務がない点も大きなメリットでしょう。
女性FPのYさんが、お客様の相続に関する相談から派生して法人成りの相談までされてしまったと言って質問にきました。彼女はマネー雑誌にも時々登場する売れっ子のFPですが、会計や税務は少々不得意としているようです。
「では、法人成りのメリットは十分にあるということですね」
私の話を熱心に聞いていた彼女は大きくうなずいて答えます。
「この消費税を2年間払わないというのはお得ですね」
「そうですね。中小法人のメリットなのですが、そろそろ見直そうという動きもありますけどね」
最近は広く課税をしようという動きが全ての税制に共通していますから税制改正の動きにはいつも注意をしている必要があります。
「ところで、会社は個人と違って3月決算とか9月決算とか決算月があるようですけど、これはどうやって決めればいいんですか?」
これはなかなか難しい質問です。
法人の場合には事業年度が終了してから原則として2ヶ月以内(延長の届出がある場合には3ヶ月以内)に所轄の税務署に確定申告書を提出することで納税をします。そして、事業年度とは各会社の定款や寄付行為により定められている営業年度によることになっています。
つまり、法人が任意に定めることができるわけです。したがって、3月でも9月でもそれ以外の月でも、法人の都合のよい月を決算月として採用すればいいのです。
しかし、任意に定めると入ってもそこにはおのずと定める根拠というものがあります。
例えば、法人とはいってももともとは個人事業です。法人成り後も社長の個人所得は相変わらず1月から12月までの所得で計算します。そこで、やはり法人成り後も従前どおり12月決算が都合がいいということもあるでしょう。社長が法人に不動産を貸しているようなケースでは、社長の不動産所得の計算期間と決算期を合わせておきたいようなケースが想定されます。
その他には、事業年度を1年未満にすることは可能ですが、1年以上の事業年度を定めた場合には、1年間で期間を区切ることになります。
芸能人やスポーツ選手のマネージメントを行う芸能法人などのように報酬に対する源泉税が発生するため決算期ごとに還付があるような場合には、例えば6ヵ月ごとの決算を組むということも有効かもしれません。
「法人成りといっても、いろいろ注意点があるんですね」
「ええ、それがプランナーの腕の見せ所かもしれませんしね。これらの点については、よくよくお客様のことを知っていないと気がつかないケースもありますから注意をしておく必要がありますよ」
Yさんは熱心にメモを取っています。優秀な方々はいつの時代にもメモ魔のようです。
「ところで先生、法人の決算期の話ですが、先生から見てこうするのがベストという決め方はありますか?」
「うーん、そんな魔法のような決め方はないとは思いますが・・・、ただ、中小企業の経営的な観点からすると今とは別の見方も出来るかもしれませんね」
「と言いますと?」
中小企業に限りませんが、経営をするに当たって無借金で経営が出来ている法人は少ないでしょう。むしろ、この景気低迷期においてはいか
にして利益のある決算にしていくかを考えている経営者の方が多いのではないでしょうか。
では、利益計画上は決算期をいつにしておくのがいいのでしょうか。
これについては、1年間のうち最も利益の上がる月の少し前にしておくのが良いという考え方があります。
よく経営者の方が、「決算の利益を予想するといっても、将来の売上高なんて分からないんだから・・」 というような表現をします。しか
し、資金繰りのことを考えると、早めに決算予測を立てて金融機関に報告をしておかなくてはなりません。
そこで、1年のうちで売上が上がりやすい時期からスタートさせるようにして、期末の変動をできるだけ少なくするようにするわけです。つ
まり、期末追い込み型の経営から先行逃げ切り型の経営に変えるわけです。一概にどれが良いとは言えませんが、一度、自社の決算期は適正であるかについても検討してみる必要がありそうです。
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