第14回 「ノーベル賞の賞金は課税?非課税?」
今年もノーベル賞の受賞者が発表され、日本からもすばらしい功績を残されたお二人の方が受賞をされました。非凡な方には当然のようにご褒美が与えられ、ノーベル賞の場合には日本円にして1億円を超える報奨金が支給されるようです(共同受賞の場合には分割)。
日ごろお金の相談には乗っていても、お金にはとんと縁のない実務家としては、ノーベル基金から支給される金品にはどんな税金がかかるのだろうかと気になるところです。
「先生、頭のいい人というのはいるものなんですね。しかし、この賞金というのは税金がかかるものなんですか?」
早速同じような疑問を持っている新入社員のKが話しかけてきました。
「人に相談する前に自分で調べてみることを君は覚える必要があるな。僕も興味のあるところだから、一度調べて報告してみてくれ」
「はあ、先生なら何でも知っていると思ったのですが、お知りにならないようでしたら調べてみます」
「ちょっと!それはちがうぞ。僕は知らないわけでは・・・」
10分後に再びやってきたKは、勝ち誇った顔で報告します。
「実はですね、先生。ノーベル賞の賞金というのは個人がもらいますから本来であれば所得税がかかるんですが、所得税には税金のかからない非課税の所得が定められていて、ノーベル基金から支給される金品は非課税なんですよ」
「ほう、そうなのか。他にはどんなものがあるんだ?」
「調べてみると、結構いろいろな所得が非課税になっているんですが、面白いところでは、オリンピックで1位から3位になった人が日本オリンピック委員会から支給される金品も非課税になっていますね」 所得税には各種の非課税の所得が定められていますが、大きく分けると次の2種類に分類できます。1、ある特定の者に帰属する所得を全て非課税にする、いわゆる人的非課税と、2、所得者に関係なく特定の内容の所得を非課税にする物的非課税です。
非課税所得という考え方は古くからあり、歴史的に見ると国王・貴族・僧侶といった特定の階級の人は免税になる人的非課税がありましたし、日本でも天皇・皇族などは原則として人的非課税ということになっていましたが、現在は皇室といえども一般的には納税義務があり、一部の皇室財産を相続税の対象から除くなどの非課税の規定が残っているだけです。
ノーベル基金からもらう金品は物的非課税ということになり、文化振興を目的とする文化功労者年金などもこれにあたります。
「しかし、賞金といっても色々あるわけだが、ノーベル賞や金メダルを獲った人だけが非課税というのは不公平ということにはならないかな?」
「でも、なんといってもノーベル賞ですからね。そんな国家の宝のような人たちから税金を取ること自体がおかしくないですか」
「うん、もっともなんだが、税金には課税の公平、つまり応能負担の原則というのがあるからね。公平ではない税制というのは問題があるような気もするけどね」
「なるほど。特定の人だけを特別扱いしているから不公平だということですか。いわれてみるとそんな気もしてくるなぁ」
「おいおい、突っ込まれるとすぐに自信がなくなるような報告では困るよ」
一口に非課税の所得といっても、その性格は様々で、政策上認められているものから少額の所得を非課税にすることで税務を簡素化することを目的にしているものまで各種各様といえます。
ノーベル賞の賞金などは社会文化政策上、租税特別措置として置かれている規定で、課税の公平を破るものであると考えられていますが、誰もが納得のできる非課税でしょうからあえて不公平だという意見も出ないでしょう。
「オリンピックの金メダルや銀メダルの報奨金も同じ考え方なんでしょうか?」
「そうだろうね。国によっては金メダルを獲ることで一生生活に困らないような保障のある所もあるくらいだから、こういった優秀な人材を輩出するためには政策的な保護も必要ということなんだろうね」
その他、身近なものとして定められている非課税所得について少しふれておきましょう。やはりサラリーマンに代表される給与所得者に関する非課税措置が一番多いようです。
旅費通勤費・宿日直料・結婚祝金等・永年勤続者の記念品などは普段は非課税が当然として扱われていますが、実際にはすべて税法に定められています。
二重課税を避けるための非課税というものもあります。例えば、相続・贈与によって取得したものについては相続税や贈与税の課税を受けることになっていますので、さらに所得税の課税を受けるということになると二重課税になってしまいます。そこで、所得税では非課税ということになっています。
担税力(租税を負担する能力)がないという理由で非課税になっているものもポピュラーです。学資金や家族を扶養するための金品や人身事故に対する損害賠償金などがそれにあたります。
「非課税の所得といっても、本当に色々あるものなんですね」
「そうだね。中には勤務先などの支給する側が注意をしていれば、従業員は非課税になったのに、知識がないために給与として課税されているなんていうケースも少なくはないから、普段からよく勉強しておく必要があるだろうね」
「いやー、勉強になりました。非課税だけでこんなに税務の勉強になるものなんですね。ちなみに、宝くじの当選金も非課税ですから、先生も覚えておいた方がいいですよ」
「君はいちいち余分な言葉が多いな」
普段疑問に思わないようなことも今回のノーベル賞のように意外なきっかけで勉強ができる時があります。そのようなきっかけをFPとして見逃さないことも重要でしょう。我々の業界はノーベル賞には縁遠い世界ですが、願わくばKのような若者が頑張ればノーベル賞にも手が届くような業界に発展してもらいたいものです。
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